法律基礎知識

相続で空き家にしないためにはどうすればよいか?

【相続で空き家にしないためにはどうすればよいか?】

全国的に空き家は増えてきており、空き家を相続する可能性は高まっています。

前回は【空き家を相続した場合どうすればよいか?】というテーマで解説しましたが、前回のコラムを読んでくださった読者の方からこんな質問が届きました。

「そもそも空き家にしないための事前対策はないのでしょうか?」

そこで今回は、空き家と相続の生前対策について解説していきます。

空き家とは

空家等対策の推進に関する特別措置法での定義によると…

「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。(空家等対策の推進に関する特別措置法第二条第一項)

空き家は現在、全国的に増加の傾向で、総務省が住宅の数や状況などを調べるため、5年に1度行っている「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は住宅全体の13.%にあたる900万戸と過去最多となったことが分かりました。(令和5年10月1日実施。昭和23年以来5年ごとに実施しており、今回で16回目)

つまり、約7軒に1軒が空き家という状況です。

(東京都の空き家数の例)

東京23区 約81万戸 

世田谷区  約5万戸 

品川区   約2.4万戸

目黒区   約1.3万戸

(平成30年住宅・土地統計調査)

東京23区は空き家数が多く、特に世田谷区は全国で最も空き家が多くなっています。世田谷区に空き家が多い理由は、

「世田谷区は、23区で最も人口が多く、高齢化率も上がっていて、65歳以上の世帯数が増えているのが現状です。また、住みたい街としても知られていますが、土地の流通価格が高いため遺産分割協議でもめてしまうケースが多くあります。相続人全員で遺産をどう分けるか話し合わなければならないのですが、相続には、亡くなった人の配偶者・子・孫(ひ孫以降)・直系尊属(父母や祖父母など)・きょうだい・甥や姪が関わってくるため、世田谷区のように資産価値が高い地域だと、関係者の協議は難航します。結果的に、管理されていない空き家はそのままの状態になってしまうのです

(NPO法人『空き家予防協会』森角和則理事長)

このように、空き家の発生原因は相続が半数以上を占めており、相続のタイミングで被相続人の居住建物が空き家となるケースが多いことが分かります。

空き家を放置するリスク

空き家には「特定空家等」といった分類もあり、空家等対策の推進に関する特別措置法での定義によると…

「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。(空家等対策の推進に関する特別措置法第二条第二項)

(空家対策の推進に関する特別措置法では、特定空家等を市町村が判定し、所有者に対する助言、指導、勧告、命令及び行政代執行ができることとなっており、特定空家等に該当するかは各市町村に確認が必要となります。)

このように、空き家は倒壊の危険性がある等、周辺環境に影響を及ぼす可能性があります。

それ以外にも、空き家の所有は、資産面においてもリスクとなります。

空き家を持ち続けていると固定資産税や維持費等のランニングコストがかかります。空き家となった建物は既に築年数が経っている場合も多く、時間の経過とともに建物はさらに劣化していくため、資産価値の下落は避けられないことが多いです。このため、持ち続けるほど売却が困難になるという恐れがあります。

相続で空き家にしないための対策 

世の中には相続に関連して空き家の問題で悩んでいる方々が大勢いらっしゃいます。

例:Aさん(仮名)

「親の死亡後、誰が親の家を相続するか話し合いがまとまらず、家の名義変更を先延ばしにしていたら、いわゆる空き家状態が続き、気付けば資産価値が下がり続けて売却も困難に…。こうしたケースを避けるためには事前にどうすればよかったのでしょうか?」

例:Bさん(仮名)

「親が一人で住んでいた実家から老人ホームに入ってから、10年くらい空き家状態で、親は途中で認知症になってしまい、実家を売却等せずにそのまま亡くなってしまいました。生前に何か対策が出来たらよかったのですが…」

Aさんの場合、2024年4月までは相続登記が義務化されておりませんでしたので、遺産分割や相続登記を先延ばしにし、最後の居住者のまま名義を変えず放置されているというケースもあるかと思います。

Bさんの場合、最後の居住者が売却や名義変更をせず転居した場合は所有者は元の居住者のままです。居住していないので、所有者としての自覚がなく、そのまま亡くなってしまえば放置され空き家になってしまう可能性が高いです。

このような事態を予防するには
空白の期間が生じないようあらかじめ責任者を決めておくのが対策になるのではないでしょうか。
対策として次の2つの方法をご紹介します。

  1. 遺言書

遺言書は財産の継承者をあらかじめ決めておく文書です。

(メリット)

・不動産を相続させる人をあらかじめ決めておくことができる

・空き家を管理処分することのできる権限を一人に集中させることができる

・権限を一人に集中すれば名義変更がスムーズ

遺言書があれば、遺言者の死亡後、その内容に従い、遺産分割協議を経ずに不動産の名義変更できますから空白の期間が生じにくくなります。

したがって遺言で自宅不動産の相続人を決めておけば、相続発生後に相続人が直ちに名義を自己のものに変更することができます。

そして、売却する等適切に対処することで、空き家として放置されることを防ぐ効果が期待できます。
・遺言がないと、相続の発生と同時に財産は相続人全員の共有状態となり遺産分けの話し合いをし、遺産分割協議書を作成しなければ、不動産の名義変更の手続きができない

そして、売却する等適切に対処することで、空き家として放置されることを防ぐ効果が期待できます。

自分の死後、自分の家が空き家になる可能性のあるオーナーは、遺言書作成を通じて、空き家を処分することのできる権限を一人に集中させることを検討することも大切です。

2、家族信託

Q、「家族信託って、言葉は聞いたことはあるけど難しそうだし、

どういう仕組みなの?」

(家族信託の概要)

家族信託とは、家族による財産管理方法の一つの手法です。所有権を

「財産から利益を受ける権利」と「財産を管理運用処分できる権利」と分けて、後者だけを子ども等に渡すことができる契約です。
家族信託に登場するのは次の3者です。

「委託者」 財産のもともとの所有者で、財産を任せる人

「受託者」 財産の管理運用処分を任される人

「受益者」財産から利益を受ける人

委託者が財産の管理を受託者に任せ、その財産を受託者が管理し、その財産から発生した利益を受益者が得る仕組みになっています。

家族信託では親のために子が財産を管理し、利益は所有者である親が得るなど委託者と受益者が同じ人になることが多いです。

(メリット)

・空き家になる可能性の高い物件を受託者に任せれば、受託者は、信託目的に沿った管理、運用、処分等をすることができる

・物件の管理を任された受託者は、空き家になる可能性の高い物件を、空き家になる前にどのような対応をすればよいかということを検討する時間的な余裕が生まれる

・空き家を処分することのできる権限を一人に集中させておくことができる(実際には物件を任せる受託者が複数存在する場合もあるため、権限の分散がないとは限りませんので、契約書の内容には十分注意しましょう。)

・委託者が老人ホーム等施設入所するなどして自宅に住まなくなった場合は、受託者がかわりに自宅を売却や賃貸でき、自宅の空き家化を防ぐことができる

・受託者が委託者の自宅を売却した費用を委託者が老人ホーム等施設入所への高額な支払いにあてることができる

このように元気なうちに家族信託に関する契約書を作成しておくことで空き家対策になるとともに、財産の有効活用にもつながります。

まとめ

今回は【相続で空き家にしないためにはどうすればよいか?】について解説しました。

今回解説した対策は責任者をあらかじめ明確にしておくはたらきがありますので、住まいの空き家化を防ぐ効果が期待できます。

空き家の相続は、相続開始前から、空き家をどのような取り扱いにするのか検討しておくことが大切です。

解決策が分からない方へ

どのような選択肢がベストなのか、自身で判断するのが難しい場合は、

一度、相続の専門家である私たちに相談されることをおすすめします。

空き家問題を未然に防ぎたい方は、まずは弊社お問合せフォームから気軽にご相談ください。

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