相続と成年後見を考える前に知っておきたい
「できること・できないこと」
相続や成年後見のご相談を受けていると
「これは本人が一人で決めていいことですか?」
「後見人が必要ですか?」
「相続人の中に認知症の方がいるのですが遺産分割の話し合いはできますか?」
といった質問を受けることは少なくありません。
これらを判断するのに重要になるのが、民法上の「行為能力」という考え方です。
今回のコラムでは、相続や成年後見の場面で問題になる
「できること・できないことの考え方」
「成年後見か必要か必要でないかの判断基準」
「成年後見が必要な場合のよくある疑問」
についてできるだけ噛み砕いてご説明いたします。
1 行為能力とは何か
「行為能力」とは、自分一人で契約などの法律行為(法的な効果を生む行為)を、間違いなく取り消される心配なく有効に行える能力のことです。
(行為能力者)
・大人(18歳以上):一人で家や車を買ったり、契約を結んだりしても、その行為は有効
(制限行為能力者)
・未成年者:親の同意なしに高額な買い物をしても親が取り消すことができる
・成年被後見人:判断能力が著しく不十分な人は、後見人が後から取り消すことができる
※例外として日用品の購入は取り消しの対象外
民法では、すべての人(自然人)が自由に法律行為を行えるわけではありません。
未成年者や、成年後見・保佐・補助が開始されている方については、一定の法律行為に制限が設けられています。
2「日用品購入」や「日常生活に関すること」は自由にできる
未成年者や、成年後見・保佐・補助が付いている方は、原則として重要な法律行為を一人で行うことができません。
ただし、日々の生活まで過度に制限してしまうと、本人の生活や尊厳が損なわれてしまいます。
そこで民法は、「日用品」や「日常生活に関する事項」については、制限行為能力者であっても単独で行為できる
という例外を設けています(民法9条ただし書、13条ただし書)。
2―①「日用品」とは?
シャンプー、歯ブラシ、石鹸のような日常的に使用する消耗品は金額も少額で、生活を維持するために不可欠なものといえるため誰が見ても日用品です。
では、衣類、腕時計、健康器具(肩こりを和らげるネックレスなど)はどうでしょうか?
実は、「これは日用品」「これは日用品じゃない」と法律で決まっている訳ではなく、金額や品目を具体的に列挙した規定はありません。判断のポイントは、その人の生活にとって、普段使うものかどうかです。
たとえば、
1,000円の洋服 → 多くの方にとって日用品
10万円の洋服 → 一般的には日用品とは言いにくい
ただし、資産に非常に余裕があり、普段から高額な衣類を購入する生活をしている方であれば、10万円の洋服でも「日用品」と判断される可能性はあります。
2―②「日常生活に関すること」とは?
こちらも法律上の明確な定義はありません。入浴、散歩、近所への買い物、通常の通院などは、明らかに日常生活の一部です。
では、温泉旅行(湯治)、遠方や海外への帰省、美容医療の受診はどうでしょうか?
一般的には「特別な行為」と考えられやすいですが、その人の生活実態によっては、日常生活に含まれる場合もあります。
たとえば、
毎年同じ温泉で湯治をしている
医療行為が日常的な生活の一部になっている
このような場合は、温泉旅行や医療行為であっても「日常生活に関すること」と判断される余地があります。日々の生活を送るうえで通常行われる行為かどうかという視点が重視されます。
つまり、行為の内容ではなく、その人の暮らし方が基準という点がとても重要です。
2―③判断基準は「物」や「行為」ではない
重要なのは、「これは温泉旅行だからダメ」「これは衣類だからOK」という形式的な判断をしないという点です。
本人の資産状況、収入、これまでの生活実態、行為の金額・頻度・目的を総合的に見て判断されます。
2-④誰が決めるの?
「これは日用品ですか?」「これは日常生活ですか?」
と聞かれることがありますが、最終的に一律の答えがあるわけではありません。後見や相続の手続では家庭裁判所が、紛争となった場合には裁判所がその人の資産・収入・生活状況などの具体的事情を踏まえて判断することになります。
3 相続との関係
相続の場面では、遺産分割協議、相続放棄、高額な財産処分などが問題となりますが、これらは通常
「日用品」や「日常生活に関する事項」を明らかに超える行為
に該当します。
そのため、成年後見・保佐・補助の要否や、特別代理人の選任が必要になるケースも少なくありません。
4 相続で「成年後見人」が必要かどうか簡易チェックリスト
相続が発生したとき、「後見制度を使うべきなのか分からない」というご相談は非常に多くあります。
まずは、以下のチェックリストで大まかな目安を確認してみてください。
(チェック1 判断能力について)
次のような状況はありませんか?
□ 自分の財産や収支をほとんど把握していない
□ 相続や遺産分割の話をしても理解が難しい
□ 同じ話を何度も繰り返す
□ 契約内容を理解せずに署名してしまいそう
□ 医師から認知症や判断能力低下を指摘されている
★ 複数当てはまる場合は、日常生活は送れていても、複雑な遺産分割の利害得失が判断できない可能性があり、後見・保佐・補助の検討が必要になることがあります。
※あくまで目安であり、最終判断は家庭裁判所が行います。
(チェック2 相続手続きへの参加ができるか)
□ 遺産分割協議の意味が理解できない
□ 書類の内容を説明しても納得できない
□ 他の相続人との話し合いが成立しない
★この場合、本人単独での遺産分割協議は難しい可能性があり、後見・保佐・補助の検討が必要になることがあります。
※あくまで目安であり、最終判断は家庭裁判所が行います。
(チェック3 後見以外で対応できそうか)
□ 判断能力は少し不安だが、日常会話は問題ない
□ 相続手続き以外は特に支障がない
□ 利益がぶつかるのは遺産分割だけ
★このような場合、成年後見ではなく
特別代理人(未成年者や判断能力が不十分な相続人が遺産分割協議に参加できない場合に代わりに家庭裁判所が選任する第三の代理人で遺産分割協議が終わると同時にその役割を終える一時的な代理人) で足りることもあります。
※あくまで目安であり、最終判断は家庭裁判所が行います。
5 成年後見監督人はどんなときに付くの?
相続の場面では、判断能力が不十分な相続人がいる遺産分割協議ができないといった理由で、成年後見制度を利用することがあります。
このとき、「後見人が付いたら、必ず監督人も付くのですか?」 という質問をよく受けます。
答えは「必ずではありません」
後見監督人は、成年後見人の仕事(財産管理や契約など)が適切に行われているかをチェック・監視する人のことで家庭裁判所が「必要がある」と判断した場合に選ばれるという仕組みです。
5―①監督人が付くことが多いケース
次のような場合には監督人が選ばれやすい傾向があります。
(ケース1 親族が後見人になる場合)
被後見人にまとまった預貯金があり、親族が後見人として財産管理を行うような場合、不正や不適切な行為を防ぐためにチェック役として監督人が付くことがあります。
基準は各裁判所により異なりますが、多額の流動資産(預貯金等)がある場合は、専門職後見人を選任するか監督人を選任する可能性があります。
(ケース2 遺産分割で利益がぶつかる場合)
相続では、後見人自身も相続人というケースがよくあります。
例えば、認知症などで判断能力が低下した方(成年被後見人)と、その方の成年後見人がともに相続人になる場合、成年後見人が自分の相続分を増やそうとすると成年被後見人が不利益になる場合などです。このような利益相反がある場合、監督人が選任される場合もあります。ただし、相続内容が複雑でなく遺産の金額もそれほど大きくなければ特別代理人でも問題はありません。
優先順位的には、後見監督人がいればその人が代理し、いなければ特別代理人を選任するという形です。
5―②専門職が後見人になる場合
行政書士や弁護士などの専門職が後見人に就任する場合は、原則として監督人は付かないことが多いですが、事案の困難性や資産規模によっては付くこともあります。
※行政書士の場合、公益社団法人成年後見支援センターヒルフェという団体に加入していないと専門職以外の扱いとなる家庭裁判所がありますが、弊社はヒルフェに加入しております。
※基準は各裁判所により異なりますがヒルフェに加入していても多額の流動資産(預貯金等)がある場合は、監督人を選任している家庭裁判所もあります
6 まとめ 相続では「生活実態」と「バランス」が重要
日用品・日常生活は「その人の暮らし方」で判断される
後見人でなく特別代理人で問題ないケースもある
後見監督人は自動的に付くものではない
相続手続では、法律の条文だけでなく、その方の生活や家族関係を踏まえた判断が欠かせません。
「後見が必要か分からない」
「監督人が付くのか不安」
といった場合は、早めに専門家へご相談ください。
相続や成年後見では、誤った判断が大きなトラブルにつながるため、迷われた場合は、早い段階で専門家に相談することが、
ご本人・ご家族双方を守ることにつながります。










