単独相続と信じて占有を続けた相続人は救われる?
〜自主占有がもたらす“単独所有権”取得への道〜
兄弟姉妹で親の遺産を相続する場合、相続人は法定相続分に応じて遺産を共有することになります(民法898条、899条)。本来であれば、相続人の一人が勝手に「自分のもの」とすることはできません。 しかし、現実には、「家を継ぐお前にすべて任せる」という親の生前の言葉を信じたり、他の兄弟は相続を放棄したものと思い込んだりすることで、一人の相続人が「自分が単独で相続した」と信じ込み、長年にわたり遺産である不動産を管理・使用し、固定資産税まで負担し続けるケースが少なくありません。このような「自分一人のものだ」という正当な確信(自主占有の意思)に基づき、結果として一人の相続人がすべてを引き受けてきた——というのは、不動産実務でもしばしば耳にする話です。このような相続人は、永遠に共有関係から抜け出せないのでしょうか。
自主占有と他主占有の違い
ここで重要となるのが、占有の種類です。占有には、所有の意思をもって行う「自主占有」と、賃借人のように所有の意思なく行う「他主占有」とがあります(民法185条)。 そして、取得時効(民法162条)が成立するためには、自主占有であることが必要です。 共同相続の場合、各相続人は他の相続人の持分も含めて占有しているため、原則として、自らの持分を超える部分については「他主占有」と評価されます。単に「他の兄弟が遠方にいて、関心を示さないから自分が管理しているだけ」という状態では、いつまで経っても時効は成立しません。
例外:相続開始時から自主占有と評価される場合
しかし、例外として相続開始時から自主占有と評価される場合があります。 最高裁は、共同相続人の一人が「単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかったような場合」には、相続開始時から単独所有者としての自主占有を取得すると判示しました(最判昭和47年9月8日)。 すなわち、本来は他主占有とされるべき場面であっても、「単独所有だと信じるに足りる主観的な事情」があれば、例外的に当初から自主占有と評価される余地があるのです。
自主占有取得のメリット——時効取得への道
自主占有を取得することの最大のメリットは、取得時効(民法162条)による単独所有権取得への道が開かれる点にあります。すなわち、20年間(善意無過失であれば10年間)自主占有を継続すれば、本来は共有財産であった相続財産につき、単独の所有権を時効取得できる可能性があります(同条1項・2項)。単独の所有権を時効取得できた場合は、何十年も経ってから他の相続人やその子(代襲相続人)から突如として持分主張をされるリスクから解放され、不動産取引や担保設定の場面でも単独所有者として自由に処分できるようになります。
認定のハードルは低くない
もっとも、実際には、占有の起算点や占有の性質について争いになることも多く、容易に認められるものではありません。 この判例が認められるには、①単独相続との確信、②現実の占有・管理・使用収益の独占、③公租公課の自己負担、④他相続人の無関心、という事情が揃う必要があり、ハードルは決して低くありません。特に「①単独相続との確信」については、単に「兄弟が何も言ってこない」だけでは不十分であり、客観的にみて「自分のものだ」と信じ込むに至った特別な事情が厳格に問われます。一部でも他の相続人が関与していたり、賃料収入を分配していたような事情があれば、自主占有とは認められない可能性が高まります。
まとめ
相続不動産を長年にわたり単独で管理してきた場合であっても、直ちに単独所有が認められるわけではありません。 しかし、一定の事情のもとでは、例外的に自主占有が認められ、取得時効によって共有関係から離脱できる可能性もあります。 ご自身のケースがこれに当たるかどうかは、事実関係の評価に大きく左右されるため、専門家に相談のうえ慎重に検討することが重要です。
【専門家との連携につきまして】
相続財産の時効取得は、高度な法的判断と複雑な手続きを要します。 他の相続人との間で法的な争いが生じている(または生じる可能性が高い)場合には提携弁護士を、時効を原因とする不動産登記手続きが必要な場合には提携司法書士をご紹介するなど、当事務所では各分野の専門家と緊密に連携しております。 行政書士として事実関係の調査や書類作成を担いつつ、最適なチーム体制でお客様をトータルにサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
【参照法令・判例】
・民法162条(取得時効)
・民法185条(占有の性質の変更)
・民法898条、899条(共同相続の効力)
・最判昭和47年9月8日










